漬物と雪中保存
香の物
雪国の冬の保存食である漬物は「香の物」とも言われ、この言葉には都の響きが感じられます。
京都は、日本の古い伝統を数多く残しており、漬物もその一つです。漬物は、もとは宮中の公家などが、味と香りを楽しむぜいたく品でした。お茶の普及とともに各層に広まっていったといいます。京都の漬物と言えば、千枚漬とスグキ漬、これは、塩漬発酵の漬物で、発酵により、塩味がまろやかになり、香りも生まれます。雪国と京都は、雪の深浅に違いはありますが、内陸地で、冬は寒いという環境は似ています。また、古くから特産の織物で、京都と交易がありました。京都の漬物文化が入ってきて、保存食から香と味を楽しむ香の物になったのでしょう。
萩藩主の口に
鈴木牧之は、『北越雪譜』の出版を依頼した山東京山*に、度々漬物を贈っています。京山は、娘の仕え先の萩藩主にも贈り「萩の殿様の口にも入り、縁は味なものなり」と礼を述べています。
山東京山
(さんとう きょうざん 1769―1858)
江戸後期の戯作者、山東京伝の弟。
海辺からやってやってきた漬物
海の魚の代表と言えば、昔は棒タラと身欠けニシンと決まっていました。お正月、冬のぜいたくな漬物が、ニシン漬です。野菜と身欠けニシンを、塩と糀に漬けこんだものです。晩秋ごろ漬け始め、冬が食べごろとなります。
ニシン漬けは、海岸地域の漬物がニシンとともに入ってきたのでしょう。北海道では、ニシンがたくさん獲れると、素干しにして身欠けニシンで保存します。この身欠けニシンで秋に漬物を作るのです。寒さも厳しい北海道、トウガラシ、ニンニク、ショウガも入れるといいます。
めでたいものは、大根種
天神ばやしや田植歌には「めでたいものは 大根種 咲いて実れば 俵重なる」とあります。大木六関家年中家例*では、冬の年中行事の献立に大根がたびたび使われています。雪中は新鮮な青物が乏しく、大根は冬を代表する野菜でした。
大木六(旧塩沢町)関家年中家例
天保十一年に分家を出した時、年中行事・農作業をまとめ、渡した記録。
大根つぐら
大根つぐらは、雪とワラを利用した冷蔵庫です。ワラの持つ断熱性と湿潤でマイルドな雪が、適度な温度と湿度の環境を作り出します。この中に、野菜、主に大根を入れ、雪におおわれると鮮度が保たれるのです。青い杉の葉も使われ、これはネズミ除けにもなります。杭を立てる大根だて、穴を掘って作る土だてもあります。
みなかみ町では雪の室を作り、保存しました。
現在の冬の保存食材(松之山郷の自然を食う会提供)
保存方法 | 食材 |
乾燥 | ゼンマイ、ワラビ、コゴメ、ズイキ、干し柿 |
塩漬け | ウド、フキ、深山イラクサ、野沢菜、大根、白菜、キクイモ、ウリ、ミョウガ、ズイキ、マタタビ |
瓶詰 | タケノコ、キノコ |
現物(含冷凍) | 自然薯、トロロ芋、山フジの種、銀杏、鬼クルミ、山椒の実、アズキ菜、ムカゴ、クリ、ドングリ、ヒシ、ケンポ梨、山梨、コゴミ、ミョウガ |