北越雪譜
余が隣宿六日町の俳友天吉老人の話に、妻有庄(新潟県十日町市、津南町)にあそびし頃聞しに、千隈川の辺の雅人、初雪より十二月二十五日(天保五年)までの間、雪の下る毎に用意したる所の雪を尺をもつて量り...
雪を掃ふは落花をはらふに対して風雅の一つとし、和漢の吟咏あまた見えたれども、かかる大雪をはらふは風雅の状にあらず。初雪の積りたるをそのままにおけば、再び下る雪を添へて一丈(約3m)にあまる事もあ...
宿揚と唱る所は家の前に庇を長くのばして架る、大小の人家すべてかくのごとし。雪中はさら也、平日も往来とす。これによりて雪中の街は用なきが如くなれば、人家の雪をここに積。次第に重て両側の家の間に雪の...
縮は越後の名産にして普く世の知る処なれど、他国の人は越後一国の産物とおもふめれど、さにあらず、我住魚沼郡一郡にかぎれる産物也。他所に出るもあれど僅にして、其品魚沼には比しがたし。そもそも縮と唱ふ...
さらし屋とてこれをのみ業とす、又おりたる家にてさらすもあれど稀なり。さらしやはその家の辺又程よき所を見立、そこに仮小屋を造り物をも置、また休息の処とす。晒人は男女ともうちまじり身を清める事織女の...
市場とてちぢみの市あるは、まへにいへる堀の内十日町小千谷塩沢の四ケ所也。初市を里言にすだれあきといふ。雪がこひの簾の明をいふ也、四月のはじめに有。堀の内よりはじむ、次に小千谷、次に十日町、次に塩...
魚沼郡の内宇賀地の郷堀の内(新潟県魚沼市堀之内)の鎮守宇賀地の神社は本社八幡宮也、上古より立せ給ふとぞ。縁起文多ければここに省く。霊験あらたなる事は普く夜にしる処なり。神主宮司の家に貞和文明のこ...
信濃と越後の国境に秋山といふ処あり、大秋山村といふを根元として十五ケ村をなべて秋山とよぶ也。秋山の中央に中津川といふありて、すえは魚沼郡妻有の庄(新潟県津南町)をながれて干曲川(信濃川)に入る川...
(たれむしろをする事堂上にもありて古画にもあまた見えたる古風なり)勝手の方には日用の器あまたとりちらしたるなかに、ここにも木鉢三つ四つあり、囲炉裏はれいの大きく深きの也。さて用意したる米味噌をと...
雪中歩行の具初編に其図を出ししが製作を記さず、ふたたびその詳なるを示す。

◯藁ひとたけにてあみたつる。はじめはわらのもとを丸けてあみはじめ、末にいたりてわらをまし二筋にわけ折かへし、
◯...
我住塩沢より下越後の方へ二宿(六日町、五日町)越て浦佐といふ宿あり。ここに普光寺といふあり、寺中に七間(約13m)四面の毘沙門堂あり。伝ていふ、此堂大同二年の造営なりとぞ。修復の度毎に棟札(むね...
筑紫のしらぬ火といふは古歌にもあまたよみて、むかしよりその名たかくあまねく人のしる所なり。その燃ゆるさまは春暉が西遊記にしらぬ火を視たりとて、詳にしるせり。其しらぬ火といふも世にいふ竜燈(りゅう...
農家市中正月の行事に鳥追といふ事あり。此事諸国にもあれば、其なす処其国によりてさまざまなる事は諸書に散見せり。江戸の鳥追といふは非人の婦女音曲するを女太夫とて木綿の衣服をうつくしく着なし、顔を粧...
魚沼郡雲洞村雲洞庵は越後国四大寺の一なり。四大寺とは滝谷の慈光寺、村松にあり 村上の耕雲寺、伊弥彦の指月寺、雲洞村の雲洞庵なり。十三世通天和尚は、霜台君(上杉謙信)の親藉にて、高徳の聞えは今も口...
魚沼郡の官駅十日町の南七里(約27km)ばかり、妻在庄(十日町市)の山中此へんすぺて上つまりといふに田代といふ村あり。村を去事七八町(約760m〜870m)に七ツ釜といふ所あり、里俗滝つぼを釜と...
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