竜燈
筑紫のしらぬ火といふは古歌にもあまたよみて、むかしよりその名たかくあまねく人のしる所なり。その燃ゆるさまは春暉が西遊記にしらぬ火を視たりとて、詳にしるせり。其しらぬ火といふも世にいふ竜燈(りゅうとう)のたぐひなるぺし。
(中略)
又我国の八海山は巓に八つの池あり、依て山の名とす。絶頂に八海大明神の社あり、八月朔日(一日)を縁日とし山にのぼる人多し。此夜にかぎりて竜燈あり、其来る所を見たる人なしといふ。およそ竜燈といふものおほかたは春夏秋なり。諸国にある事諸書にしるしたるを見るに、いづれもおなじさまにて海よりも出、山よりもくだる。毎年其日其刻限、定りある事甚奇異なり。(北越雪譜 二編巻之二より抜粋)